【水の匂いとは何か】映画『渇水』【ネタバレ】

渇水 映画

こんにちは。映画大好き編集者のグルリンゴ(@entame13423)です。

今回ご紹介するのは、本日6月2日に公開された生田斗真主演の映画『渇水』です。

生田斗真の新境地でしょう。素晴らしい演技、作品全体もハイクオリティなのは間違いありません。

『渇水』(ネタバレ)

渇水

個人的星取

3.8 貧困、ヤングケアラー、虐待、育児放棄、温暖化など多重なテーマ設定。

映画.com 星取

2023年6月2日現在 
☆:4.1
レビュー数:8

スタッフ・制作陣

◎監督
高橋正弥
◎脚本
及川章太郎
◎原作
河林満
◎出演者
生田斗真/門脇麦/磯村勇斗/山崎七海/柚穂/尾野真千子

あらすじ・概要

「凶悪」「孤狼の血」などを送り出してきた白石和彌監督が初プロデュースを手がけ、生田斗真を主演に迎えて送る人間ドラマ。作家・河林満の名編「渇水」を原作に、心の渇きにもがく水道局職員の男が幼い姉妹との交流を通して生きる希望を取り戻していく姿を描く。

市の水道局に勤める岩切俊作は、水道料金を滞納している家庭や店舗を回り、料金徴収および水道を停止する「停水執行」の業務に就いていた。日照り続きの夏、市内に給水制限が発令される中、貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々を送る俊作。妻子との別居生活も長く続き、心の渇きは強くなるばかりだった。そんな折、業務中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会った彼は、その姉妹を自分の子どもと重ね合わせ、救いの手を差し伸べる。

監督は、岩井俊二監督作や宮藤官九郎監督作で助監督を務めてきた高橋正弥。

(引用:映画.com)

感想・ネタバレ

「省略」がうまい作品、というのが見終わった後の最初の感想です。100分という短さの中にいくつものテーマが埋め込まれていて、鑑賞後の充実度が高いです。

生田斗真の過去、親との関係、子供との関係、磯村隼人と恋人のエピソード、門脇麦と新恋人のその後、市職員で仕事に参っている若手について、ちょっと幻想的な要素……などなど、描きこみたくなりそうなエピソードがたくさんありますが、あえて描かないことで想像の余地が生まれ、また短い上映時間で見やすい作品になっています。

生田斗真(岩切)の感情を覗かせない表情、そして乾いた眼の奥。ただしすべてに絶望しているわけではなく、人間味はある。その絶妙なラインを、生田斗真が演じきっています。

冒頭、自転車で駆ける小出恵子(山崎七海)と、後ろで姉に掴まる小出久美子(柚穂)。

強烈な日差しのなか、公営プールに行きますが、給水制限により閉業中。姉の恵子は、残念そうにする久美子の顔を見て、水の入っていないプールで遊ぶことを提案します。

姉と妹の絆を感じさせるとともに、恵子の面倒見がよく責任感があることがわかるシーンです。

また、この空になったカラカラのプールと、ラストのプールとの対比が眩しく、「渇水」から「豊水」とまではいかずとも、心の活力が多少なりとも満たされたことが視覚的に表現されます。

やはり何よりも「市の水道局員の停水執行業務」というお仕事要素が抜群に面白いですし、斬新です。これは原作時からの設定で、河林満さんの原作が優れているところです。

「停水執行」は、直接的に対象者の命に関わってしまう業務です。しかもその停水作業は、ものの1分で終わってしまうほどあっけないもの。命の重さと作業の軽さが表裏一体なのです。

重責のある作業ですが、岩切は心を殺して業務を続けます。同僚には、その作業の責任の重大さに心が疲弊し、また岩切のバディである木田(磯村隼人)も、あまり物事を深く考えないようにし、冗談を言い続けることで何とか毎日を誤魔化しながら生きています。

そこで出会った小出有紀(門脇麦)。母であることを捨てかけている女性。しかし赤色のマニキュアが表すように、女を捨ててはいません。

このあたり、育児放棄がリアリティをもって描かれていると思います。こういったキャラクターの場合、たいていは「ひどい母親」なのです。もちろん最終的に子供を捨てた有紀はひどい母親ですが、娘たち二人の様子を見ることが(おそらく)好きで、生きるためのお金を供給することも忘れません。

彼女がマッチングアプリで稼ごうとしている背景には、女性の就業制限や、働きづらさの問題が隠れているでしょう。マッチングアプリで出会った男にひどい対応をされてキレる彼女の言葉には重みがあります。

有紀が新しく出会った彼は、果たして良い人なのでしょうか。映画ではあえて全く語りません。それがまた生々しいのです。

有紀は、旦那や岩切のことを「水の匂いがする」と言います。これは流れゆく存在のことを指しているでしょう。恐らく99%スエズ運河にはいない元旦那はいったいどこに流れていってしまったのか。有紀は岩切の表情を見て、匂いを嗅いで、彼自身がどこかふわふわしていて家族に奉仕できない「水の性質」をかぎ取ります。

岩切自身、直接は描かれませんが親からある程度のネグレクトを受けている可能性が高く、だからこそ自分の息子を好きになってしまう自分に怯えてしまいます。

そして水鉄砲すら与えられなかった幼少期の彼自身の幻影でしょうか。物語中盤、岩切と木田の前に、あの頃の少年が現れます。岩切は自身の過去を木田に打ち明けます。

小出姉妹がどうなってしまうのか、観ていてずっとハラハラしていました。水が止められていて、かつ母親が返っていないわけで、最悪家の中で死ぬことだってありえるわけです。母親の帰りを待ちながら。

それでも彼女たちは、公園の水をくんだり、万引きをしたりすることでなんとか生きながらえようとします。親を信じて。泣いてしまいます。

岩切は、妻子と会うが思うようにはいかず、車を森の中に走らせます。そして、「渇水」など遠く彼方にある大自然を前に、滝を前に、決心をします。

恵子の万引きの様子をみた岩切は、姉妹を公園に連れ出すのです。

そこからの展開、素晴らしい!!「小さなテロ」が、大きな感動を生み出すのです。

このカタルシスたるや。

そして掴まってしまう岩切と、恵子の目が合うラスト。

岩切が恵子に何を伝えたかったのか、恐らく恵子はわかっているはず。

この公園ラストは本当に素晴らしいシーンでした。

あと、岩切と木田と姉妹がアイスを食べるシーンも良いです。「あたり」のくだりにささやかな幸せを感じ、アイスという物のはかなさが彼らの関係を物語っていました。

難点を挙げるとしたら、子役の演技でしょうか。

山崎七海さん、柚穂さんはともに存在感抜群で、この映画でも特に印象を残す二人です。ただ、どうしても棒読み感が強く、見ていてこれは何か特殊な演出法を取っているのでは……と勘繰りました。

パンフレットには、今回は子役には基本的に台本を渡さず、その場でセリフを伝えて演技をしてもらったとのこと。これは是枝裕和監督と同じ子役へのアプローチです。

しかし是枝監督作品の子役は、怖いくらい自然な演技になっていて、その自然さに観客は没入しますし、その演出手腕に慄きます。

今回は、その手法があまりはまっておらず、どちらかというとセリフを言わされている、何とか言わなくては……となっているように感じてしまいました。事前に覚えてきたほうが、やはり基本的にはうまく演技ができるのだと思います。

原作はコチラ↓ラスト含めて、結構変更点があります。

created by Rinker
¥748 (2024/12/04 17:48:53時点 楽天市場調べ-詳細)

終わりに

生田斗真さん主演の映画はほとんど見ていますが、彼史上No.1の作品だと思いました。

抑えられた演技がここまでうまいのだったら、また出演作品の幅が広がりそうです。

高橋監督の次回作にも期待!

映画
グルリンゴをフォローする
ブログ管理人

グルリンゴと申します

漫画や映画などエンタメ作品に取り憑かれた編集者です。

編集歴15年以上。大学卒業後、出版社に就職。雑誌や漫画、ビジネス書などの編集を経験。これまで手掛けた作品は50作以上。

幼少期から本に囲まれる生活を送る。年間の読書量は漫画100冊、書籍30冊程度。映画の鑑賞本数は年間100~200本程度。自分が「これは面白い!」と思った作品を(押し付けがましくないように)人にオススメするのが生きがいで、このブログを始めました。

グルリンゴをフォローする
グルリンゴ

コメント

タイトルとURLをコピーしました