こんにちは。漫画大好き編集者のグルリンゴ(@entame13423)です。
どえらい新人が現れました。岡田索雲 (オカダサクモ)さん。
本作は7編で構成された短編集です。連作短編集の形にも読めます。
各短編の主人公は妖怪。
妖怪と現実世界がリンクしていて、現実世界で起きている様々な問題……男尊女卑、ハラスメント、MeToo運動、人種差別など、現代社会の問題提起を妖怪の特性に折り込みつつ、エンターテイメントとしても楽しめるという、大変射程の広い作品です。
妖怪はそもそも人間社会のメタファーな側面があるので、この設定が抜群にうまいと思いました。そしてくすっと笑える場面がいくつもあります。
『ようきなやつら』感想(ネタバレ)
個人的星取
☆4.3 妖怪ものの傑作
Amazon星取
2023年7月6日
☆:4.6
レビュー数:216
作者紹介
2008年、河川敷で暮らすホームレスを描いた短編『ブラックタイガー』で第24回MANGA OPEN大賞を受賞し、『モーニング』(講談社)でデビュー。
2013年から2015年まで、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で『鬼死ね』を連載。
2016年から2017年まで、『漫画アクション』(双葉社)で『マザリアン』を連載[4]。2018年から2020年まで、同誌で『メイコの遊び場』を連載。
(引用:wikipedia)
あらすじ・概要
【むかし、どこかに半分置き忘れてきたお化けの魂。
ここにあったのか。 京極夏彦】
WEB上で話題騒然の岡田索雲妖怪読切シリーズ、待望の単行本化!! 描き下ろしの表題作『ようきなやつら』40P収録!!
怪異なのは、この物語か。それとも、我々が生きるこの世界か。
(引用:Amazon商品紹介ページ)
感想・評価
『東京鎌鼬』
妖怪は鎌鼬(かまいたち)。性的同意の話です。
鎌鼬の夫婦が登場。夫は背中に鎌を背負って獲物を捉えに行きます。夫は子作りを望んでいますが、妻はそんな夫を少し遠ざけています。なぜ遠ざけるのか。コミュニケーション不全を描きます。
自分の理想を押し付け、相手の意志を無視して性交を望む夫。妻はそんな夫の「特に何を」恐れているのか。
自分の理想像とはかけ離れた自らの子供が目の前に現れたとき、恐ろしいことが起きてしまうのではないか。対話のない夫婦、望まない妊娠の先に何が待つのか。
そんな恐ろしいことが、虐待やDVにつながってしまうのではないか。
そんな想像を巡らせる一作。悪いやつがきちんと倒される、のは痛快。
『忍耐サトリくん』
妖怪は覚(さとり)。人の心を読む妖怪。
人の心の権利の話。
和山やま『女の園の星』へのアンサーというか、カウンターにしか思えない一作です(笑)。
作中一、笑えてエンタメしている作品です。
人と目を合わせられない男子生徒と、良識があって生徒思いな先生との対話。
他人が心のなかで何を思っているかなんて誰にもわからない。
思いやりに溢れている人が、実は心のなかで考えていること。
自分のことを騙そうとしていると思っていた他人が、実は心のなかで考えていること。
世界は究極に多面的である、というメッセージ性。勇気をもらえる一方、恐ろしさもありますね。
そして作中で出てくる「人の心の中は何者からも自由であるべき大事な領域です」という一言。人と人とは100%わかり合えない。1%もわかり合えない人だってたくさんいる。
主人公のサトリは、先生の本性を暴こうと躍起になるが、それはもしかしたら正しい考え方かもしれないし、危うい思想かもしれない。人の心の大事な部分を想像できる生物(人間でも妖怪でも)になりたいと思う一編でした。
私は先生支持派。彼は努力しています、だいぶ(笑)。しかし頭の中が面白かったです。
『川血』
妖怪は河童。人種差別を想起させる話。
このあたりから作者の思想やメッセージが垣間見えてきますね。あと絵のタッチが多彩で驚きます。
少年は頭に皿がないことを指摘されて落ち込みますが、父ちゃんが言う通り「皿がないってことは弱点がないってことだ!」は圧倒的な強みでもあると思うんですよね。こ
れは現代社会でも言えることで、なにかに秀でていても、その特徴が大勢と異なる場合、迫害の対象になることがあるという……。本当は強みのはずなのに。全く理不尽なことではありますが。
井の中の蛙大海を知らず。海に出た河童は、様々な生き物……姿形の違う生き物たちが共生している海に出て、視界がひらけます。
父ちゃん母ちゃんのセックスの描写や、異国から来たと思われる同胞を助けるためにローションを持っていくシーンなど、重いテーマの中に、思わずクスリとしてしまう場面もあります。
『猫欠』
妖怪は化け猫。生きづらさ、引きこもりがテーマ。
周りはやいのやいの言います。それが善意でも悪意でも。とても身勝手ですが、本当に辛いときは、放っといてほしいのです。そして、コチラから話しかけたくなったら話しかけて楽になりたいのです。その話相手が「丁度いいとき」にほしいのです。
話しかける猫は、引きこもる猫の気持ちが多少わかります。やはりこれは大きい。同じ境遇にいないと相手の状況が理解できないというのは、厳しいですが往々にしてあることですよね。
猫又の医者が可愛いです。
『峯落』
妖怪は山姥。性被害(特に立証できない過去の)、MeToo運動がテーマ。
次期頭領候補の三名。絶対選ばれることはない「女性」候補。とりあえず入れときゃいいだろ感、どこかで見たことがありますね、こんな国ありますよね。
マサリは暴力で解決します。この解決方法はどうなの?という声があったら、それは、これでいいんです、と言いたいです。
まず絶対的な被害者なんですマサリは。そしてしらばっくれ続けるクソ人間がいるのです。散々暴力で抑え込まれてきたのです。
だから、今後は逆の立場としてお前らを虐げると言うし、その権利があると思うのです。きちんと目配せもあります。フジトという良心。男が100人いたら100人、頭領のようなやうばかりではないんです。
私はめちゃくちゃ爽快感のある一編だと思いました。
チェ・ホンマンより1mも大きいマサリが本気出したら怖いですね。著者は格闘技好きなのかもしれない。
『追燈』
妖怪は提灯小僧。関東大震災時の朝鮮人虐殺が題材。
「ちょっと考えればわかるだろ」この一言が虚しいです。
この一言に集約されるんです。でも人はわかり合えない。ちょっと考えれば、普通に考えれば、持ったらおかしいじゃないですかその差別意識は。でも「普通」って何、という話になるんです。
この溝が深すぎてただただ辛いです。すべての差別も、相手を憎み始まる戦争も。提灯小僧(提灯お化け)の火の使い方にグッと来ました。目頭熱くなりました。そりゃちびるわ。途中で挟み込まれる長い文章があまりに凄惨です。
『ようきなやつら』
妖怪は九尾の狐。
すごいです。アベンジャーズか、シャマランユニバースか。後者のほうが近いですね。少し歳をとったキャラクターもいて、冒頭でコロナ渦ということが提示されるので、現代が舞台ですね。
徹底的に差別を受けている側に寄り添う描写が心地よいです。人を救うのはコミュニケーション。人を貶めるのもコミュニケーション。一人でも自分のそばに理解者がいてくれたら世界はこんなにも美しくなるんだと、狐の嫁入りが教えてくれます。
河童の両親についての新情報もあります。悲しいですね。
『ようきなやつら』お得に読む方法
私が調査した結果、以下の方法が最もお得です。
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終わりに
今回は『ようきなやつら』をご紹介しました。
間違いなく漫画の賞レースには絡んでくる一作だと思います。
現代性があり、問題意識があり、かつエンターテイメントとして抜群に面白い。両立している作品はなかなかありません。
著者の『マザリアン』を読んでみました。絵が上手、そして笑えて、ちょっとファンタジックな要素がありました。そのファンタジックな要素がまた笑えてくるという。
ユーモアのセンスが抜群に良いのだと思います。それでいて今作のようなシリアスな物語も描ける。今後の活躍が期待されます。
どうも、グルリンゴ(@entame13423)でした。
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