【漫画時評/賛否両論】『正しくない先輩』【ネタバレ】

正しくない先輩 漫画

こんにちは。漫画大好き編集者のグルリンゴ(@entame13423)です。

今回ご紹介するのは、「ジャンプ+」にて2023年7月17日に掲載された読み切り漫画「正しくない先輩」です。読谷あかね原作、四ツ谷壇作画。

死にたい先輩と止めない後輩の、“生“を見届ける物語ーー。

漫画が公開されてすぐにネット上では「自殺を擁護するのか」「自殺を肯定した漫画の掲載はNG」「こういう正直な漫画はありがたい」などの感想が飛び交いました。

作者は自殺のことを肯定も否定もしていないというのが私の感想です。

『君と宇宙を歩くために』感想(ネタバレ)

個人的星取

4.0 先輩の感覚に共感できる

作者紹介

作画:四ツ谷壇

原作:読谷あかね

あらすじ・概要

物語は大学時代に仲の良かった先輩後輩が久しぶりに再会するところから始まる。仕事も人間関係もすべて捨て、これから長野に死にに行くと言う先輩。すると後輩はそれを止めもせず、死ぬのを見届けたいと長野まで付いて行き……。いつも不完全で予想外で、“正しくない”先輩の最期まで変わらない姿が描かれる。

(引用:コミックナタリー)

感想・評価

【感想】 読み切り漫画『正しくない先輩』 正しいとはなんなのか 賛否両論になるのもわかる内容【ネタバレ注意】

作者は自殺のことを肯定も否定もしていないというのが私の感想です。

恐らくそれは間違いなくて、判断は読者に委ねられています。


まずとてもエンターテイメント性が高いです。「予想を裏切る」展開は一種のミステリ的仕掛けとしても機能していて、こちらの感情を揺さぶります。スパムの文面が実は……という展開もそうです。

この時点で作者が大上段に自殺をテーマにしているとはあまり思いませんでした。

他にも例えば冒頭の「まぐろとカレーって相性良いんですね」というセリフは、先輩が仕掛けた「予想を裏切らせる」行動の一つ。

ラスト、後輩からカレー巡りに誘われた尾内先輩が、有名店からではなく近場からカレー屋巡りを始めるという場面も一つ。

こんな感じでディテールから先輩のキャラクターを表しているのもエンタメ的作法です。


先輩の尾内(自殺を実行する側)と後輩(自殺を止める側)の心理描写にリアリティがあります。

尾内が新幹線を降りて突然叫ぶのは、クソ上司に電話をする「勇気」を出すための行動と捉えられます。

「死ぬ」と宣言された上司はてんぱりますが、どれも上辺だけの言葉。本当に尾内のことを心配していないことは誰の目にも明らかです。

そして完全に鬱傾向にあるのが、尾内は自分のことを悪いという思うのです。クソ上司ではなくクソ部下に原因はある。仕事はできない。逃げ出す。短絡的。プライドは高い……自分自身に矛先が向かっているのです。

明らかに悪いのは上司なのに。泣けてきます。

これ以上生きて人に迷惑をかける前に、尾内は自殺を実行するのです。その異常なまでの責任感。


後輩は先輩の自殺を止めませんでした。それは予想と同じ反応はしたくないから。

だからこそ、予想外の行動を起こす尾内先輩のことが後輩は大好きでした。

先輩と後輩の信頼関係ができなければ起こせない言動。

先輩に自殺を止めてほしいに決まっています。だからこそ後輩がひねり出した、最善の策。それが先輩の予想を裏切る自殺についていくという手段でした。

だがその願いは叶いません。先輩は別の形で、後輩の予想を裏切るからです。

この漫画は、自殺したい人の気持ちを丁寧に描き、自殺を止めたい人の言動をリアリティをもって描いています。そしてエンターテイメントとして面白い作品にもなっています。

自殺を肯定するなんて意見は短絡的です。バトンは読者に委ねられています。

どうも、グルリンゴ(@entame13423)でした。

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グルリンゴと申します

漫画や映画などエンタメ作品に取り憑かれた編集者です。

編集歴15年以上。大学卒業後、出版社に就職。雑誌や漫画、ビジネス書などの編集を経験。これまで手掛けた作品は50作以上。

幼少期から本に囲まれる生活を送る。年間の読書量は漫画100冊、書籍30冊程度。映画の鑑賞本数は年間100~200本程度。自分が「これは面白い!」と思った作品を(押し付けがましくないように)人にオススメするのが生きがいで、このブログを始めました。

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