【娘を返して】『今朝もあの子の夢を見た』【ネタバレ】

今朝もあの子の夢を見た 漫画

こんにちは。漫画大好き編集者のグルリンゴ(@entame13423)です。

今回ご紹介するのは、いまコミックエッセイ界で最も勢いのある漫画家の最新作『今朝もあの子の夢を見た』です。

どうしてこの二人は離婚したのか作中では明言されていません。それが本作を傑作へと押し上げた一因です。

グルリンゴ
グルリンゴ

ここ数作とは一味違う、生意気なことを言いますが著者の成長を感じさせる一作です。

グルリンゴについて


★出版社での編集者歴15年以上。漫画、ビジネス書などの編集を経験。
☆年間の読書量は漫画100冊、書籍30冊程度。映画の鑑賞本数は年間150本程度。
Twitterでは最新のお勧めエンタメコンテンツを紹介。
☆「これは面白い!」と思った作品を人にお勧めするのが生きがい。

『今朝もあの子の夢を見た』 内容紹介

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個人的星取

3.8 過去作に比べて、あえて描いていません。

Amazon星取

2022年11月28日現在 
☆:4.0
レビュー数:28

2022年12月4日
☆4.2
レビュー数41

作者紹介

野原広子……イラストレーター。2021年『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』2作により、第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞。作品に『娘が学校に行きません』『今朝もあの子の夢を見た』『赤い隣人』など。Twitterアカウントは無し。

あらすじ・概要

『妻が口をきいてくれません』(第25回手塚治虫文化賞「短編賞」受賞作)の野原広子が、離婚後の家族に切り込む。大反響のウェブ連載を経て、待望の書籍化。

妻が書き置きのみを残し、娘を連れて家を出た──。
山本タカシ、スーパー勤務、ひとり暮らしの42歳。離婚して10年、当時7歳だった子どもに一度も会えず、元妻とどこに住んでいるかも連絡先もわからない……この家族にいったいなにが起こったのか。
(引用:Amazon 商品紹介ページ)

感想・評価

【主要登場人物】


山本タカシ……スーパーに勤める一人暮らしの42歳。離婚して10年が経つ。

山本タカシの妻……名前は出てこない。娘のさくらを連れて家を出る。

鈴木真美……タカシの同僚。彼氏と別れたばかりの30歳。

天野さくら……タカシの娘。7歳の時に母に連れられ家を出る。

野々村……タカシの同僚。噂好き。

重い題材へのチャレンジ

面白かったです!

絶賛評が相次いだ『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』と比べて、今作の評価はかなり分かれると思います。評価ポイントは「妻側の心情をほとんど描写していない」ことの是非です。

版元のサイトに掲載されているこちらの著者インタビューにて以下の言及があります。

ただ、今回の作品においては「妻の言い分」のように説明的に描写するのはやめました。謎解きの答え合わせをするかのように、“正解”を描いちゃいけない本だと思ったからです。

『今朝もあの子の夢を見た』単行本発売記念! 野原広子さんインタビュー「“正解”を描いちゃいけない本だと思った」

この通り、これまでの作品にあった「正解」を描くのをあえて避けていることがわかります。私も最初は、読み終わった後に「ずいぶん投げっぱなしなラストだなぁ」と思いました。

しかし今回は、子供の「誘拐」や「洗脳」など過激な表現が出てくることからもわかるように、かなり重いテーマの作品です。

エンタメ的展開でそういったテーマを消化することは可能だったでしょうが、著者はそれを避けました。

実際、主人公のタカシ視点からすると、元妻はなぜ子供を連れて去ってしまったのか、当人の口から聞かない限りは真相がわからないわけです。妻側の心情を描かないのは一種のリアリズムと言えます。この姿勢は支持したいですし応援します。

妻視点がないことの是非

個人的に物足りなかったのは、「正解」を描かない分、展開にメリハリがなく、大きな出来事が起きないところです。普通に考えれば「誘拐された」という夫視点が序盤に配置され、後半では妻視点で「なぜ誘拐したのか」「どれだけ辛い状況に置かれていたのか」が明かされるものでしょう。

タカシと、スーパーに新しく入社した事務の鈴木さんとのエピソードが終盤まで続きますが、これが「タカシは心から妻と子供を想っていて、新しい女性との付き合いを考える余裕などない」を示すだけのエピソードになっているのが勿体ないです。

鈴木さん側の決着は特に無し。中盤から17歳の娘・さくらが登場します。もちろんそちらの方が物語的には重要ですので、さくら描写に比重は傾きます。

鈴木さんがどうしても装置に見えてしまいました。でも鈴木さんパートは、フィクションとして面白い部分でもあります。妻に逃げられた男性と、その男性を警戒しつつ徐々にひかれる女性の恋物語として。

さくらの描写

細かいことは置いておいて、さくらの小さい頃がめちゃくちゃ愛おしく描写されています。野原さんの筆力を感じさせます。

カバー絵のさくらの横顔を見るだけでウルっときますし、作中で象徴的な自転車に乗っている場面は涙腺崩壊しかけます。

さくらは何も悪くないのに、両親の不仲で思いもよらない道を歩むことになる――17歳になっている。うう……泣けます。

監修について

余談ですが、Twitterを見る限り本作について場外乱闘が起きています。

共同監修の弁護士についての賛否です(主に共同親権について)。議論が活発ですが、まず何よりコミックエッセイの執筆に、きちんと弁護士の監修をいれたことが評価されるべきだと思いますし、内容を見ても、弁護士の意見に偏ってしまっている……という印象はありませんでした。

著者がエンタメ路線から一度脱却して、誠実にテーマに向き合ったのが本作と言えるでしょう。賛否は分かれるでしょうが、読んで損はありません。

『今朝もあの子の夢を見た』お得に読む方法

私が調べた限り、こちらの方法が最もお得です。

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終わりに

今回は『今朝もあの子の夢を見た』をご紹介しました。本作は、なぜ妻が子供を連れて出ていってしまったのか。その理由は書かずとも、残された者の苦悩を克明に描きました。

以下リンクでは、野原広子さんの他作品のレビューを行っています。よろしければご一読ください!

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(2023/6/9追記)

野原広子さんの新連載「さいごの恋」がこちらからスタートしています。

46歳独身女性の日常が……こちらも面白いのでぜひ!

どうも、グルリンゴ(@entame13423)でした。

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グルリンゴと申します

漫画や映画などエンタメ作品に取り憑かれた編集者です。

編集歴15年以上。大学卒業後、出版社に就職。雑誌や漫画、ビジネス書などの編集を経験。これまで手掛けた作品は50作以上。

幼少期から本に囲まれる生活を送る。年間の読書量は漫画100冊、書籍30冊程度。映画の鑑賞本数は年間100~200本程度。自分が「これは面白い!」と思った作品を(押し付けがましくないように)人にオススメするのが生きがいで、このブログを始めました。

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